ある新聞記事:自己撞着やら保身やら

callithump2006-05-16

先日のドラびでお釧路公演のリヴューが、一昨日の日記での心配とは裏腹に、昨日(15日)の北海道新聞夕刊の道東版にカラーの写真入りで予定通りに掲載された(右の写真)。特別に好意的な評ではないが、基本的に非難の色はまったくない平穏な紹介文。

しかし、今朝の同じ道新朝刊の道東版「取材日記」というコラムに「主催者は観客に配慮を」という見出しで同じ公演を扱った別の記者による記事が掲載された。前日の記事とは裏腹に非難囂々な内容。以下にその全文を転載する。

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 ホールに響き渡るドラム演奏の中、砲弾で兵士が吹き飛ばされたり、男性が宴会でコンパニオンのような女性の体を触ったりする映像が流れた。会場の親子連れは次々と外に出て行った。
 十四日に道立釧路芸術館で開かれた「ドラびでお」のコンサート。山口市在住のドラム演奏家、一楽儀光さんの音楽と映像を融合させたパフォーマンスで、百四十人の観客が訪れたが、その内容は過激だった。
 親子の中にはアニメの「ドラえもん」のビデオが流れると思っていた人もいたようだ。私は事前に告知の記事を書いたが、同館に見せてもらったサンプル映像は、そこまで過激ではなく、十分確認ができなかった。
 一部の観客からは歓声も上がり、権力への風刺がきいた内容を楽しんでいる人もいた。しかし、せめて十八歳未満は入場禁止にするなどの措置が必要ではなかったか。
 同館によると、過激な映像は控えるよう一楽さんに申し入れたというが、結果的には女性の裸の映像などがそのまま流れた。パフォーマンス自体の好き嫌いはあってもよいが、主催者は観客が不快に思わないような配慮を事前に徹底すべきだったと思う。

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一見、いかにも"社会の木鐸"的な良識の伝導のように読めなくもないが、実はこれには裏がある。この記者のもっとも書きたかった(言い換えると、自分のために書く必要があった)箇所は、「私は事前に告知の記事を書いたが、同館に見せてもらったサンプル映像は、そこまで過激ではなく、十分確認ができなかった」というくだりであろう。自身の書いた事前紹介記事に対する非難を避けるために、前日の記事との自己撞着も意に介さずに紙面を私物化したとしか思えない。そのための我田引水として彼は事実の歪曲まで行っている。記事冒頭の兵士や宴会の映像は「親子連れは次々と外に出て行った」後に映写されたものだし(親子連れが嫌悪したのはおそらく大音量の演奏や、高速で次々に再生される『キ●・ビル』の殺陣シーンや『バ●ル・ロ●イヤル』の射殺シーンのカット・アップだ)、「一部の観客からは歓声も上がり」というくだりも前日の記事の「演奏の最後には観客から大きな拍手が送られた」という記述と矛盾している(主観的な見方であることを揶揄されることを覚悟で言えば、「大きな拍手」の方が「一部の観客」よりも事実に即していると思う)。

実際に公演に足を運んだ人よりも、この記事を読むだけの人の方が圧倒的に多いであろうことを鑑みれば、「親子の中にはアニメの『ドラえもん』のビデオが流れると思っていた人もいたようだ」という記述は、まるで主催者がそのように情報操作をしたかのような誤解を招きはしないだろうか? もしドラえもんのビデオが美術館で流れると思ったのだとしたら、それは単なる親の勘違いに過ぎない。たしかに公演後に主催者は子どもたちへの配慮の不足があったことをを深く反省していたが、「せめて十八歳未満は入場禁止にするなどの措置が必要」と紋切り型の教条主義を振りかざしていれば美術館本来の役割を全うできるとは思えない。

「同館によると、過激な映像は控えるよう一楽さんに申し入れたというが〜」は、右翼対策として皇室の映像はカットしてほしいというものに過ぎなかったし、「女性の裸の映像」も0コンマ数秒のカット・アップが数回流れたに過ぎない(そもそも、女性の裸=過激な映像という感覚が幼稚すぎる)。最後の「パフォーマンス自体の好き嫌いはあってもよいが、主催者は観客が不快に思わないような配慮を事前に徹底すべきだったと思う」という記述はそれだけならたしかに正論だが(いや、本当は「パフォーマンス自体の好き嫌いはあってもよいが」ではなくて、「〜好き嫌いはあって当然だが」とするのが正しいと思うが)、それが記者自身の保身のための方便に使われているのがこの記事のもっともいやらしく、また腹の立つところである。正義感をかざしちゃあいるが、所詮はその程度の低い意識からの提言でしかないってのが実際のところなのだ。

ちなみに、先日も書いた「これは映像によるテロだ。税金でこんな公演をやるなんてふざけてる」とライヴ後にのたまった人と、今朝の記事を書いた記者は同一人物だ。ついでにばらすと、彼は館のスタッフに「折角紹介してやったのに裏切られた」とかなんとかとも言ったそうである。事前の紹介記事の文章も「このコンサートは一楽さんのリズム感のある演奏を聴きながら面白い映像が楽しめるのが特徴」といったお粗末さとテーノーぶり。「十分確認ができなかった」という言い逃れも、その鋭利さを見抜けなかっただけ、能うに叶わずというだけのことではなかろうか?


今日は小樽市小樽文学館で公演。公立の施設という事情もあり、主催者からやはり「皇族と18禁の映像はカットしてほしい」という要望があり、一楽さんにはしなくてもいいだろう苦労をしてもらうことになってしまったが、それを補って余りある強力な演奏を披露してもらった。

開演前に1人のお婆ちゃんがDVDを買い求めに来た。先日の釧路の件や今朝の新聞記事のこともあったので、途中で失望して帰ってしまった場合を考えて「終わってからでもお買い求めいただけますよ」と言ったが、このお婆ちゃん、ニコニコして買って行き、終演まで席を立たなかった。しかし、演奏が終わるや否やさっきのDVDを持って物販ブースに駆け寄ってきた。てっきり返品だと思い用意していた代金を払い戻そうとしたら、「今やった『マツケン●●●』はこれに入っているの?」と訊かれ、入っていない旨を伝えると、「入っているのと交換して下さい」と言われる。交換してさし上げると深々とお辞儀をして帰っていった。ちょっとイイ話。

終演後は小樽市内の鮨店で軽い打ち上げ。明日の札幌公演は規制解除、縛りなしの全開バリバリ300%の予定。お楽しみに!