『Forever 板谷博 10年目の夏』

callithump2006-07-02

さる事情から一時の仮住まいにしていた日暮里のアパートから今の住まいに引っ越しをした96年の夏の日、引っ越しの荷物を車にすべて積み終え、いざ出発しようとした矢先に電話が鳴った。電話の向こうには梅津和時さんの憔悴しきった声。「板谷が死んじゃったよう」。オレが今のアパートに越した日が板谷さんの命日だ。

今夜は新宿ピットインで、没後早10年になるトロンボーン奏者、板谷博さんの追悼ライヴ。一番手は有志メンバーによるベツニ・ナンモ・クレズマー(みな忙しくて集まれたメンバーは8人のみ)による4曲。シングルのリズム・セクションに管楽器奏者6人というこのバンドにしてはイレギュラーな小編成だが、ユニゾン主体のアプローチが功を奏してか、逆に厚みのあるアンサンブルになったかな。

続いて、梅津和時、片山広明、早川岳晴、小山彰太、松本治、佐藤春樹によるセッション。生活向上委員会の名曲「アフリカ象」のD.U.B.風の再演と、板谷さんが好きだったミンガスの「Good-bye Pork Pie Hat」の2曲を演奏。

休憩を挟んで後半は板谷さんのリーダー・グループだったギルティ・フィジックの10年ぶりのリユニオン。板谷さんのいない穴は松本治さんががっちり埋めて、ジャジーでファンキーでメロウでクールな....いやいやいや、そんな紋切り型のタームではとても掴み切れない(しかし、そのすべてを十二分に満たしている)、確固たる美学に裏打ちされた豊穣な音楽がそこにはありました。十年ぶりの再結成とは思えない素晴らしいグルーヴとインタープレイの応酬。ラストは梅津さんら3人のホーンを加えて、板谷さんの名曲「Monkey Business」で大団円。

ライヴ中時折、梅津さんが出演者にマイクを向けて板谷さんの思い出を語ってもらっていたが、みな一様に怒られた話とか、説教された話とか、喧嘩した話とかばかり。オレもいっしょに仕事をするようになった当初はコワイ人だと思ってビクビクしていたけれど、何故か不思議と板谷さんに怒られた記憶がない。なんでかな?

終演後は梅津さんが自宅押入れから発掘してきた生活向上委員会のテレビ出演時のヴィデオを鑑賞。ハンド・マイクでシャウトしまくる27年前の板谷さんの映像に腹を抱えて笑う。あまりのインパクトの強さにさっきまでの渋い演奏の余韻がどっかに吹っ飛んでしまいましたよ、もー。